ダ・ヴィンチ・モードで〜す。

非常にタイムリーと言えばタイムリー、とはいえ、元々話題になった段階から言えば今更、ダ・ヴィンチ・コードを読了。
去年だったか、一昨年だったか、初めてTV等で話題になった時には、
ノストラダムスが使えなくなったから、次はダ・ヴィンチか……」といった程度のものでした。
で、率直な感想としては、面白くないわけでは無いものの、
ハードカバーを買ってまで読む程のものでも無いな、と言った所です。
まあ、ハードカバーでも買う!というほど好きな小説家もいないし、当然これも文庫版を買ったのですが。
翻訳を担当した越前敏弥氏の尽力も大きいのでしょうが、非常に読みやすく、早い人ならば
丸一日もかける事無く上、中、下の三冊を読みきれる事でしょう。
ただし、これは文体が読みやすいという事だけではなく、内容そのものの軽さも間違いなく影響しています。
多くの話題をさらい、教会からも批判が出るほどの、といった作品を「軽い」と言うのも
おかしいと思われるかもしれませんが、少なくともほとんどの日本人にとって、
この作品はライトノベルレベルがいいところでしょう。
読み易いというのを裏返せば、この作品をミステリーとして見た場合、謎が明かされた時に読み返して
「ああ、そういう事だったのか!」と驚く程の仕掛けが存在していないという事でもあります。
そして、この作品で使われているネタそのものも、小説という体裁を成さずに発表されていれば、
ユダヤ・世界征服の野望」といった陰謀史論系のトンデモ本の中に混じっているような物です。
……というか、多くのネタ元となったレンヌ=ル=シャトーの謎からして、そういう系統のものなんですが。
この本の素晴らしさは、そのような一歩間違えれば……おそらくは間違えなくても……トンデモ的なネタに
軽いミステリー風味の調味料を加え、上質なエンターテイメントに仕立て上げた事にあるでしょう。


もう一つ、日本ではライトノベルに過ぎなくなる理由として、やはり日本人の宗教的奔放さ、
無節操さが上げられると思われます。多くの日本人にとって、イエス・キリストが処女受胎で産まれてなかろうが、
結婚して子孫を残していようが、どうでもいい事なのですから。
ある程度敬虔なキリスト教徒の日本人がこの作品をどう思ってるのかは興味深いところですが、
なんせ日本人の多くは七五三で神社に参り、結婚式を教会で挙げ、葬式はお寺さんに拝んでもらう民族です。
しかし、これは卑下するような事ではなく、原初から八百万の神を祭り、仏教の伝来を受け入れ、
キリスト教をも受け入れ、その間に廃仏毀釈といった悲劇を経た末の、世界的にも稀有かもしれない宗教、
神に対する寛容さなのです。神よりも日本人の方が寛容ですよ。
日本人はもっとこの寛容さを誇るべきです。


さて、話題になったものはパロディーにもされ易いものですが、
安部川キネコ氏が自作、ビジュアル探偵明智クン!!の中で、この作品の主人公、
ロバート・ラングドン教授をパロディーにした探偵を登場させています。
この作品の中には、薀蓄を語りだしたら夜明けまで語り続けそうな着物姿の探偵や、
彼の行く先々で殺人事件の起こる、まるで死神のような、体は子供、脳味噌ななんちゃらのような探偵など、
有名な作品の登場人物を元にしたキャラクターが何人も登場するのですが、
その中で象徴学探偵という肩書きで登場しています。そのまんまですが。
こちらでは、中世貴族風?の衣装を着て登場し、
何を見ても「あれが象徴しているのは男○です」と答えるという役回りなのですが、
これにはダ・ヴィンチ・コードに対する安倍川氏の痛烈な皮肉が効いており、
原作を読んでから見返すと、思わずニヤリ、とさせられるかもしれません。