笹本祐一「ミニスカ宇宙海賊」

こちらはタイトル買い(表紙買い)ではありません。作者買いです。
作者の心配どおり……もしくは、思惑どおり、何があったんだ、笹本とか、
大丈夫なのか、笹本、と思いながらですが。
実際のところは、タイトルがちょっとアレなだけで、
中身は実に笹本祐一らしい作品と言えると思います。


主人公・加藤茉莉香またもや(山本五十六に引き続き)女子高生。
彼女の前にあらわれた二人の男女は、亡き父の後を継いで
宇宙海賊船の船長になって欲しい、と告げるのだった……
というところから始まるのですが、主人公及び、彼女が所属する名門女子高の宇宙ヨット部の
仲間たちが、「たかが女子高生」レベルで済んでいないのは笹本作品のお約束通り。
説明的部分以外では、私掠船免状を持った海賊船の艦長候補となった茉莉香と、
ヨット部の仲間たち(+謎の転校生+おまけの大人二人)と、彼女を狙う謎の敵との
戦いが骨子となっているのですが、むしろ練習帆船オデット2世号による航海実習
関連の描写の方に力が入っているようにも見えるのも「笹本だから仕方ない」部分でしょう。
一応補足しておきますが、スペースオペラですからね、もちろん航海するのは宇宙ですよ。
帆船も太陽風を受けて航行する太陽帆船ですよ。元海賊船ですが。


この巻ではある理由から大人二人……茉莉香の父親の元・部下、パイロットの
ケイン・マクドゥガルとドクターのミーサ・グランドウッドが謎の敵との戦闘
では、おまけ……「いざというとき」の切り札状態になっており、
茉莉香とその仲間たちがなんとか自分たちの力で切り抜けよう、
という流れになっています。
この戦いはエリアルの時のようにあまりにも技術的格差のあるものでもなく、
逆にエリアル番外編の時のように主人公側に化け物的戦力があるわけでもない、
身の丈にあった、緊張感のある戦闘になっていると思うのですが、
ただ、いざというときの切り札が存在しているという時点で、
箱庭の中の戦闘に見えてしまうのも事実で、少し不満を覚える人が
いるかもしれません。


個人的には次巻以降もヨット部の仲間たち……といっても実質的に描かれているのは
部長のジェニー・ドリトル、副部長のリン・ランブレッタ、謎の転校生兼新入部員の
チアキ・クリハラの3人だけなのですが……名前があるのもこの三人だけ……
には引き続き活躍してもらいたいのですが……どうなるかなぁ。
妖精作戦のようなノリになって欲しいな、という思いがあるのですが……


というわけで、笹本ファンならばタイトルは問題にする必要無し。
逆に、お色気シーンがあるわけでも挿絵が豊富なわけでもないので
タイトルに抱いた煩悩に任せて買った分にはご期待に添えない可能性が高いです。
しかし、鍛えに鍛え上げられた百戦練磨の強者たちならば、
茉莉香とチアキのやり取りから見出した煩悩が更なる煩悩を呼び、
果てし無いスパイラルを構築出来るかもしれません。
死ねよ、そんな奴ら。一緒に死のうぜ。




……それはそうとして、なんでケイン・マクドゥガル?
其の名前だと宇宙船よりもっと似合うものがありそうで仕方ないんですが……