志真元「女子高生=山本五十六 1」

このタイトル……そして表紙には軍衣にミニスカ・オーバーニー眼鏡っ娘……
臭う、臭うぜえ、こいつは……地雷の臭いだぁ!
まあ、買ったんですけどね。


毒餃子とかの国との関係が「次に何かあったら確実に開戦」という状況に至った2010年代。
急速な拡大を余儀なくされた自衛隊には有能な士官の募集・育成が急務となる。
そんな中、政府は参加者が第二次大戦時の各将兵となって行われる
超バーチャルシュミレーションゲーム「セカンド・ウォー・リアル」
を通して、歴史教育と同時に……というよりは歴史教育に偽装して
戦争教育と使える人材の発掘を画策。
しかし、MMOSGという性格上、参加者の統率は困難を極める。
見ず知らずの人を纏め上げるには強力なカリスマを持つ指揮官が必要だった。
そこで選ばれたのが……
という話です。


粗筋からして感じてもらえるかもしれませんが、この作品は架空戦記というよりも、
もしくは架空戦記としては、かなりライトノベルに近い雰囲気になっています。
架空戦記自体、それこそ名前の通りIF世界、仮想世界の物語なのですが、
この作品の場合、作品という仮想世界の中に、更に仮想世界を構築することにより、
女子高生が……もしくは若い女性が連合艦隊の長官となるだとか、
その他、架空戦記に必須ともいえる歴史改変や技術の進捗に対する
リアリティを突き詰める必要を排除しているわけです。
この手法、萌え系架空戦記を仕立て上げるのには上手いやり方かもしれません。


そういう意味ではこの作品の肝である「セカンド・ウォー・リアル」のリアリティですが……
これは正直微妙。次巻以降の部分もあるので即断出来るものでもないし、
1941年代にムスタングの量産を謀るなど、ゲーム的……もしくはチート的な
システムの穴の突き方は個人的に興味深い描写なのですが、やはり幾つか気になる部分が。
一つは現実にゲームとして考えた時のリアリティについて。
例えば、技術者系クラスというのが存在するわけですが、
彼らはゲーム内で何をするのか……ゲームとしてどういう処理をするのか。
物語中で行っている事は戦闘機や艦船、各種兵器から各種機械の設計、開発なのですが、
実際にこのゲームが存在したとき、ゲーム内でどういう処理をすることになるのか。
まさかモンスター倒して設計図の欠片を集めて、材料集めて……なわけ無いですし、
零戦の設計したけりゃ、現実世界から設計図もっていけばいいわけですからね。
まあ、これは突っ込みを入れるだけ無粋な部分ではあるのですが、
技術、技術者関連ではもっと気になる部分があります。
例えば、もし史実より先に強力なエンジンが手に入るなら、零戦みたいな欠点だらけの
戦闘機を設計する必要が無いわけです。……まあ、皇紀2600年採用なら、
中身が烈風であれ紫電であれ零戦と呼ばれるわけですが、
既に技術者のプレイヤーに(現実の)零戦の欠点がわかっている以上、
あえて同じような設計をする必要は無いはずです。
それを踏まえた上で、巻末に載っている1300psの金星を詰んだ零戦や、
ハ40を積んだ零戦改のがどういう存在になっているのか、そしてその存在に対して、
どのような理屈をつけてくれるのか、非常に楽しみな部分でもあります。
ただ、こういう実際の歴史に裏打ちされる必要の低い技術競争は、
とんでもなくアンバランスな設定を招きそうな気がして不安も残るのですが。



更に零戦関連の話ですが、、ゲームの開始が1939年9月1日であるのに対し、
史実では試作機がその年の4月には既に飛んでいます。
堀越二郎役のプレイヤーが「俺が零戦を設計する」といった発言をするといった齟齬が存在してはいますが、
既に試作機が完成しているため、基本的にはそれに沿ったものとならざるを得ないなら、
零戦が現実の零戦に近いものになる理由にはなるかもしれません。
プレイヤーの発言にしても、十二試艦戦と零戦が全く同じものというわけでもないですしね。
これ、船や戦車はどうなるんですかね。
大和・武蔵は既に起工されてる事になるはずですが……



他、感想を幾つか。
・敵側(連合国側というかライバルプレイヤー)が今のところアホに描写されすぎ?
まあ、連合国がアホで、枢軸国がミスを犯さなくても簡単には勝てないわけですが。
・我が友ドイツ軍
ゲームシステムとして敵に回す事は出来無いため、現実よりも親密な協力体制になっています。
架空戦記だとむしろ敵に廻る方が多いよね、ドイツ。
・ゲル自重www
石橋ゲルこと、元防衛大臣のあの人が元ネタだと確定的に明らかな人が出てきますが……
出てくるというか、かなり重要人物ですが……
・主人公は(今のところ)及第点?
主人公・山本五十美は現役女子高生でありながら、監督としてサッカー部をインターハイ
優勝に導いた手腕とカリスマ性を買われ、山本五十六役にスカウトされます。
この辺り、サッカーに詳しい人から見ればとても許せるものではないのかもしれませんし、
だからってGF長官はねーだろ……という気は十二分にするのですが、
ルーデル禁止!とか叫ばれるほどの無茶っぷりは無く、あくまでもたかが女子高生、
といった描写もされており、それほど嫌悪感を抱いてしまうキャラではありませんでした。
でも、五十美と書いて「いつね」は無いよね。五十鈴でいいじゃん。


そんなわけで、各キャラクターや現実側の舞台説明に多くページを割かれている事もあり、
1巻では戦闘描写は少なく、そういう部分での評価は2巻待ちとなりますが、
それ以外は文章も含めて(少なくともライトノベルとしては)特段問題というほどの事も無く、
地雷覚悟だった割には……というのも失礼なくらいに楽しめました。


次回は多分、ミニスカ宇宙海賊で。